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2014年2月23日 (日)

もうひとつの介護の話

今日のお話は 病院で考えさせられたことです。

 ダンナの入院は2泊3日。 
よくある海外旅行のツアーのお得パックみたいなハードスケジュールでした。


 「70代から90代の女性のお部屋」と看護師さんが案内の時に話された通り ダンナと並びの窓際のベッドには 90歳代のお婆様。
反対側の窓辺のベッドには70代くらいのお婆様が。 向かいのベッドはカーテンが閉ざされていて ちょっと未確認。
この部屋は4つのベッドがきっちりとカーテンで仕切られています。 回転の速い救急病院なので 付き添いの人の姿も 見えません。 面会時間ではないからかもしれませんが。


 
 入院初日は 病室に入ったのが夕方でした。 すぐ夕食が運ばれてくるような時間でしたし 看護師さんが入院の手続きやら持ち物の準備で 落ち込んでいるダンナやあわただしい私で 周囲を見渡せる余裕すらありませんでした。

 翌日の手術が 12時から3時に変更になったので ちょっぴりできた待ち時間で 周囲の様子が見えてきました。

 隣の90代のお婆様は 看護師さんが車いすで外に移動させた時に 姿を見ましたがとてもお元気そうに見えました。 点滴や輸血をされているようですから 少し前にどこかを手術を終えた様子です。 理学療法士さんが 数回ベッドまでやって来て手足を動かすリハビリを 教えていましたが お婆さんも看護師さんも かなり大きな声で会話をしています。 耳が悪いんでしょうね。 でも 見た目も会話の内容も 90代とは思えないほど しっかりとしています。 
 「今の90代は 本当にスゴイ!」

 私の知っているご近所のお年寄りは ほとんどこのタイプの方が多く 健康な体には健康な魂が宿ると言われるように 働き者で明るく口が達者です。
このお婆さんは 強くたくましそうなので きっと無事に怪我を完治して退院されることでしょうね。

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 もう一人の70代の方は こちらからは姿が見えません。 
けれども会話の様子から 認知症であることは間違いがないようです。
看護師さんが2名 彼女のベッドの隣で 足の手術の話をされています。

 「○○さん。 明日は何の日かわかりますか?」
 「明日は…? なんでしょうね?」
 「○○さん。 じゃあ、ここはどこですか?」
 「松本ですよね。」
 「場所はどこですか?」
 「ああ、病院ですね。 う~ん、相澤病院に私はかかっているんですよ。」
 「ここは相澤病院ですか?」
 「…そうだと思います。」
 「どうしてここにいるのかわかりますか?」
 「…どうしたんでしょう?」


 「○○さん。 足の手術で入院したんですよ。 わかりますか?」
 「手術? ですか?」
 「明日 足の手術をしますよ。 大丈夫ですね。」
 「明日は手術なんですか?」
 「そうですよ。」
 「…。」


 このお婆さんは手術が心に引っかかっているんだと思います。 怖いのか本当は嫌なんですね。 だからその話題から避けたいのです。 
 うちの義母も自分の嫌なことはこういう風にのらりくらりとかわして、正常のように勘違いしてしまうくらい、話題を違う方向に無意識にすり替えようとしていました。



 「○○さん。 昨日 お話した手術の後で 絶対やってはいけない事、4つおぼえていますか?」
 「手術ですか? 分からないんですが…。」
 「昨日 プリントを渡しましたが それを声をあげて読んでください。」
 「プリントは…? どこでしょう?」
 「引き出しの中に入っていると思いますよ。」
 「これ? ああ、これですね?」
 「じゃあ、4つ書いてありますから 読んでみてくださいね。」


 「立ち上がらない。 かがまない。 足を組まない。 振り返らない。」

 
「もう一回お願いします。」

 「立ち上がらない。 かがまない。 足を組まない。 振り返らない。」

 「はい、いいですよ。 では、プリントを見ないで 4つ言ってみましょうか。」
 「ええと 振り返らない…、ええと なんでしたっけ?」
 「どうしちゃったんでしょう?私。 昔はこんなじゃなかったんですけどねぇ…。 うちは息子はみんな公務員なんです。 私も若い時は…云々…。」
 「はい、わかりました。 じゃあ、もう一回 プリントを見て言ってみましょう。」

 「はい、立ちあがらない…」

 「○○さん、明日は何の日か覚えていますか?」
 「明日は 手術ですね。」
 「そうですね。 じゃあ、さっきの4つのやってはいけない事を 言ってみてください。」
 「足を…? あら、なんだったかしら?」
 「じゃあ、プリントを声を出して読んでみてください。」

 「立ち上がらない…かがまない…」



 そうなんです。 この方は明日 どうやら足の手術をされるようなんですが 認知症のために本気で忘れてしまっているのか、故意に拒否されているのかは分かりませんが
とにかく 彼女にとって最大の危機に陥っているようです。

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 看護師さん達も 大変ですよね。 本当に辛抱強い。 同じことを何回繰り返しても 小さな子供は覚えるけれど 認知症のお年寄りは 明日にはきっと忘れてしまっているんでしょう。
不思議ですよね。
足の手術をした事を 認知症の人たちは何事もなかったように 本当に忘れてしまう事ができるんでしょうか?
痛みはきっと感じるんでしょうから そこから連想することが出来ないという事が なんだか信じられません。


 

 「絶対しちゃダメなんですよ。」
 「覚えていてくださいね。」

こんな会話を数回繰り返して 少し違う会話をします。
そしてまた「手術の後の大事な事」を確認させる為の話を繰り返すのですが 4つのうち 2つくらいは 読ませてすぐなら言えますが 真ん中に全然違う会話を入れると ひとつも覚えていないのです。
手術をするという事すら 記憶から追い払おうとしているようです。



 アルツハイマーの義母は 怪我で云々という事はありませんでした。
私が 靭帯手術でで入院した病院にも 認知症で足の手術を受ける人には出会わなかったので 足の怪我をすると立ち上がってしまうかもなんて思いつきもしませんでしたし こういう光景を真近で見たのは 初めての経験でした。
老人の骨折は治りが遅いという話はよく耳にしますが 痴呆症の老人の骨折は「歩いてしまう可能性がある」と 思いつくには実際の経験者か関係者しかいないでしょう。
術後しばらくは 健康な人でも痛みで立ち上がることは出来ませんから 病院側でも安心でしょうが 少しリハビリが出来る頃になると きっと忘れて動き出してしまうのでしょう。
怖いよね。


 我が家にやって来たばかりの義母は 当時でも もう文章を読んだりは出来ませんでした。 
でも このお婆さんのように まだ半分だけ忘れてしまう程度の軽症の認知症の家族を持つ時期は きっと周囲も病気なのだからという部分とまさかお母さんが!という現実の部分を 家族も本人もなにがなんだか理解できずに 混乱していると思います。

 
 


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 「手術が始まりますよ~。」 美人の看護師さんがお迎えにやって来ました。

その後は 手術室からディルームへ。 
気持ちは手術に切り替わって 退院後も忙しくて そのお婆さんの記憶は私の中からは消えました。 時間が経つにつれて 思い出してきました。
これは忘れてはいけない大事な事なんじゃないかと…です。



 

 認知症予備軍は 将来的に8人にひとりだと 何かの番組でやっていました。
20年後の自分の姿ではありませんように… 子供たちを泣かせているのが私やダンナではありませんように…と 祈るばかりです。

 

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